施主からの「サービス工事」の要求、どこまでが無償でどこからが有償か

「ついでにここもお願い」その一言に無償で応じていませんか?善意のサービス工事が、後に深刻な未払いトラブルを招くケースが頻発しています。タダ働きを防ぎ、正当な代金を守るための法的境界線と現場の対策を弁護士が解説します。

「ついでにこれも」― 現場を悩ませる甘い囁き

建築工事の現場において、施主様との良好な関係を維持することは、円滑な施工のために不可欠です。現場監督や職人の皆様は、日々のコミュニケーションを通じて信頼を築き、良い建物を完成させようと尽力されています。 その過程で、施主様から頻繁に寄せられるのが、「ついでにここも直してほしい」「余った材料で棚を付けてほしい」といった、いわゆる「サービス工事」の要望です。
「これくらいなら…」と、その場の判断で応じてしまうこともあるでしょう。営業的な観点から、多少のサービスは必要経費と割り切る考え方もあろうかと思います。しかし、この「善意」で行ったサービス工事が、後々になって深刻な法的紛争の火種となるケースが後を絶ちません。 「サービスだと思っていたのに請求が来た」「ここまでやってくれると言ったはずだ」・・・竣工後の精算時におけるトラブルの多くは、こうした現場での曖昧なやり取りから生じています。

「商人は報酬を請求できる」という原則と現実

法的な原則論からすれば、施工者(請負人)は商人であり、商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができるとされています(商法512条)。つまり、契約書に明記されていない追加工事を行った場合、特段の合意がなくとも、施工者はその対価を請求できるというのが建前です。
しかし、実際の建築紛争、とりわけ裁判実務の現実はそれほど甘くありません。 追加変更工事代金を請求する訴訟において、請求する側(施工者)は、「追加工事を行った事実」だけでなく、「その工事が有償であることの合意(または有償であると評価されるべき事情)」を立証しなければならないと解されています。
ここで施主側から、「あれは現場監督がサービスで(無償で)やると言った」「施工ミスのお詫びとして無償で行われたものだ」といった反論(無償の抗弁)が出されることが多々あります。もし、明確な追加契約書や注文書が存在せず、口頭でのやり取りしかなかった場合、裁判所はどのように判断するでしょうか。

「見積もりにない」=「有償」とは限らない

施工者の皆様が陥りやすい誤解の一つに、「当初の見積書に記載がない工事なのだから、当然に追加費用が発生する(有償である)」という考え方があります。 しかし、裁判所は必ずしもそのようには判断しません。たとえ見積書に明示的な記載がなくても、契約図面(設計図書)全体から見て、その工事を行うことが建物の完成に不可欠であったり、標準的な施工の範囲内であると判断されれば、それは「本工事」の一部であり、当初の請負代金に含まれる(無償)とされるリスクがあります,。
例えば、施主様からの要望でグレードアップした仕様変更について、追加費用の提示をせずに施工した場合、裁判所は「施工者が増額分の費用を負担する(サービスする)趣旨で引き受けた」と認定する可能性があります。特に、変更の規模が小さかったり、工期への影響が軽微であったりする場合、その傾向は強まります。 「プロである施工者が、費用がかかることを告げずに工事をした以上、それは無償であると施主が信じるのは無理もない」・・・裁判官はこのように考える可能性があります。

現場代理人の権限と「黙示の合意」

また、現場代理人(現場監督)の言動も重要な意味を持ちます。 現場代理人が施主様の要望に対し、費用について明確に言及せず「わかりました、やっておきましょう」と答えた場合、それが会社としての「無償施工の承諾」とみなされることがあります。 建設業法上、契約の変更は書面で行うことが義務付けられていますが、現場の実態として口頭での変更指示が行われることは珍しくありません。裁判実務においても、書面がないからといって直ちに追加請求が否定されるわけではありませんが、その反面、「書面がない=有償の合意がなかった(サービス工事だった)」という認定を補強する材料にされてしまうこともあります。

「営業努力」と「法的リスク」の境界線

では、どこまでが許容される「サービス」で、どこからが明確に「有償」とすべきラインなのでしょうか。 これには一律の基準はありません。工事の規模、金額、契約に至る経緯、施主様との関係性、そして何より「その時のやり取りがどのように記録されているか」によって、法的評価は大きく変わります。
「言った言わない」の水掛け論になったとき、施工者を守るのは「証拠」です。しかし、多忙な現場において、すべての変更について完璧な変更契約書を取り交わすことは現実的ではないかもしれません。 だからこそ、議事録の残し方、メールでの確認方法、あるいは「概算でもよいから費用を伝える」というプロセスを、日常業務の中にどのように組み込むかが重要になります。
貴社の現場では、善意のサービスが「当たり前」になり、いつの間にか経営を圧迫する未払い工事に変わっていませんか? あるいは、サービス工事のつもりで行った部分に不具合が生じ、逆に損害賠償を請求されるリスクについて考えたことはありますでしょうか。 「良かれと思って」行った行為が仇とならないよう、契約管理の体制や現場での対応ルールを見直す時期に来ているのかもしれません。個別の事案におけるリスク判断や、紛争を未然に防ぐための具体的な方策については、ぜひ一度、建築紛争に詳しい当事務所にご相談ください。

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