設計ミス/図面の契約不適合(瑕疵)で損害賠償を問われるのはどんな場合か

引渡しから数年が経ったある日、施主の代理人から一通の書面が届く。「本件建物の不具合は貴事務所の設計に起因するものである」。施工の問題だと思っていたものが、なぜ設計者の責任として構成されるのか。設計上の契約不適合(瑕疵)をめぐる責任の枠組みと、事務所を守るために必要な備えを弁護士が解説します。

この記事の概略

• 設計上の契約不適合(瑕疵)を理由とする請求には、設計業務委託契約の債務不履行構成と、不法行為構成の2つがあります。
• 債務不履行構成では、客観的な性能ではなく、主に施主との合意に反しているかどうかが瑕疵の判断基準になります。
• 不法行為構成では、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵であることまで施主が立証しなければなりません。
• 法令違反型で「施主が承諾していた」という反論が通るには、法令違反を認識したうえでの承諾であることが必要です。
• その承諾の立証責任は設計者側にあります。打合せ議事録が残っていなければ、反証することは困難となります。

「設計ミス」と言われたとき、施主はどのような法律構成で主張してくるのか

施主が選べる法律構成は、設計業務委託契約の債務不履行による損害賠償請求と、不法行為による損害賠償請求の2つです。両方を選択的に併合して主張してくることもあります。
建築訴訟で設計上の契約不適合(瑕疵)が問題になるのは、多くの場合、完成した建物に不具合が現れ、それが設計に起因するものだとして施主が設計者に損害賠償を請求する場面です。
この2つ法律構成は、名前が違うだけの些細な差ではありません。何を瑕疵と判断するかの基準も、立証しなければならない事実も、そして権利を行使できる期間も、まったく異なります。届いた書面がどちらの構成で組み立てられているかを最初に見極めることが、反論の出発点になります。

債務不履行構成では、何が瑕疵の判断基準になるのか

債務不履行構成では、客観的に見て建物の性能に問題があるかどうかではなく、主に、「施主との間で交わされた合意に反しているかどうか」が基準になります。
設計者は、設計業務委託契約に基づき、委託の趣旨に沿って設計業務を行う債務を負います。施主の要望を聴取したうえで、建築の専門家としての創造力や技術力その他の専門的知見に基づき、法令上の規制や予算等の諸条件を考慮しつつ、施主が望む建物の建築が可能となるよう設計図書を作成する。これが債務の内容です。委託の趣旨に反した設計を行えば、その設計には瑕疵があることになります。
債務不履行構成で施主が主張・立証すべきことは、①設計業務委託契約を締結したこと、②設計業務の履行が債務の本旨に従っていないこと、すなわち設計内容が合意に反していること、③損害の発生と数額、の3点です。①の契約の成否そのものが争われる場面については、設計契約書の未作成・交付漏れによるトラブルで扱っています。
したがってこの構成では、「何を合意していたのか」が主戦場になります。打合せで交わされた要望のうち、採用したものと見送ったものの区別は、設計変更と追加報酬の論点にも直結します。予算との兼ね合いで意図的に落とした仕様について後から責任を問われる場面は、予算超過による設計料不払いへの反論で取り上げました。これらの経緯が記録として残っていなければ、施主が後から語る「言ったはずだ」に対して反証する手段がなくなってしまいます。
なお、施主の主観的な不満がそのまま債務不履行になるわけではありません。この論点は、施主が「気に入らない」設計は設計者の債務不履行となるのかで整理しています。

不法行為構成では、施主は何を主張・立証しなければならないか

不法行為構成では、施主は瑕疵が建物としての基本的な安全性を損なうもの、すなわち居住者等の生命・身体または財産を侵害する現実的な危険性を生じさせるものであることまで主張・立証しなければなりません。
不法行為構成で施主が主張・立証すべきことは、①建物に瑕疵があること、②その瑕疵が建物としての基本的な安全性を損なうものであること、③その瑕疵が設計に起因すること、④瑕疵の発生についての設計者の故意・過失、⑤損害の発生と数額、の5点です。
基本的安全性の欠如まで主張・立証しなければならない以上、施主にとって不法行為構成を選ぶ実益は、債務不履行による損害賠償請求権が消滅時効にかかっている場合に限られると考えられます。債務不履行構成の権利行使期間は、権利行使ができることを知った時から5年、または権利行使が可能な時から10年。これに対し不法行為構成は、瑕疵を知った時から3年、または不法行為時から20年です。
もっとも、民法改正により消滅時効に主観的起算点が導入された結果(民法166条1項)、施主が瑕疵を知らないまま債務不履行の消滅時効が完成する場面は少なくなったと考えられます。実際の紛争では、債務不履行構成が主戦場になると見ておくのが現実的です。

法令違反型の契約不適合(瑕疵)で「施主が承諾していた」という反論は通るのか

通る場合はありますが、容易ではありません。施主が法令違反を認識したうえで承諾したことが必要であり、しかもその立証責任は設計者側にあるからです。
設計上の契約不適合(瑕疵)は、大別して法令違反型、不具合事象型、合意違反型の3つに分けられます。このうち設計事務所にとって最も危険なのが法令違反型です。建築基準法令その他の関連法令に適合する設計を行うことは建築士の基本的な職務ですから、施主と設計者の間には法令に適合する設計を行う合意があると推定され、設計内容が法令に違反していれば、原則として設計上の瑕疵があることになります。
他方で、仮に施主が法令違反の設計を希望し、承諾していたのであれば、設計内容に法令違反があっても委託の趣旨に反することはなく、債務不履行には該当しません。しかし、この承諾は簡単には認められません。一般に施主は建築基準法令に精通しているわけではありませんから、単に設計内容を承諾したというだけでは足りず、法令違反を認識したうえで承諾したことが必要とされます。
実務では、この承諾を直接示す議事録などが残っていない事例が多く、結局は関係者の供述による立証になります。その際、供述の信用性を判断する材料として重視されるのが、確認申請や完了検査の経緯です。実際の設計内容と異なる図面で建築確認申請がされていた場合、その相違が明白であれば、施主も法令違反を認識していたと推認されやすくなります。完了検査を受けたうえで後から違反となる工事を行ういわゆる二期工事がされていた場合も同様です。

設計事務所は、何を記録に残しておけばよいか

債務不履行構成では「合意に反しているか」が、法令違反型では「承諾があったか」が争点になります。そのいずれもが、設計事務所側の記録の有無で決着することが多いでしょう。
設計は形の残らない業務であり、判断の経緯は意識して残さない限り消えていきます。
打合せのたびに議事録を作成し、施主に送付して確認を得る。予算や法令上の制約で要望に沿えなかった点は、その理由とともに書面に残す。施主が法令上の制約を承知のうえで特定の仕様を選んだ場面では、その旨を明示的に記録する。手間のかかる作業ですが、数年後に届く一通の書面に対して事務所を守るのは、この記録だけです。
現在、設計上の瑕疵を主張されている、あるいはその予兆を感じておられる設計事務所の皆様。相手方の主張が債務不履行と不法行為のいずれで組み立てられているのか、その要件を満たしているのか、そして手元の図面や議事録からどのような反論を構成できるのか。事案ごとに見通しは大きく異なります。弁護士安藤亮は建築・設計分野に特化しており、全国からオンラインでご相談いただけます。書面が届いた段階で、まずはお気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 設計の不具合を指摘する書面が届きました。まず何を確認すべきですか。

A. 書面が債務不履行と不法行為のどちらで組み立てられているかを確認してください。何を瑕疵と判断するかの基準も、立証しなければならない事実も、権利を行使できる期間も、構成によってまったく異なるためです。

Q. 引渡しから何年たてば、設計上の瑕疵を問われなくなりますか。

A. 債務不履行構成の権利行使期間は、権利行使ができることを知った時から5年、または権利行使が可能な時から10年です。不法行為構成は、瑕疵を知った時から3年、または不法行為時から20年とされています。

Q. 施主の要望どおりに設計したのに、法令違反だと言われました。承諾があったと主張できますか。

A. 施主が法令違反を認識したうえで承諾していたのであれば、委託の趣旨に反することはなく債務不履行には該当しません。ただし、単に設計内容を承諾したというだけでは足りず、承諾の存在は設計者の側が主張・立証しなければなりません。

Q. 議事録は、どの程度まで残しておけばよいですか。

A. 打合せのたびに議事録を作成して施主に送付し、確認を得てください。予算や法令上の制約で要望に沿えなかった点は理由とともに書面に残し、施主が制約を承知のうえで特定の仕様を選んだ場面では、その旨を明示的に記録してください。

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